2005-01-01から1年間の記事一覧

新しい文学に向けての断章三 円環の時間

何かの先に向かって押し流されてゆく時間の中で、まるで異質に、とどまる時間というものがある。静かに、そっと繰り返される、円環にも似た時間。変わってゆく外界の中で、変わらない生の形。その時間は、ただ一人のものであって、誰かと分かちあうものでは…

雑記

構造において捉えなおそうとする欲動が強くなる。強くなりすぎる。言葉が言葉を呼び、音が音を呼ぶ、そんな遊びめいた動きが恋しい。 言葉の裏に意味はなく、言葉のおかしな運動だけがあり。 黄金のゆめは過ぎた まなこは青く *人かげを訪うて永く 雛のうた…

雑記

ある朝窓を開けると、金木犀の匂いがして、ほんとうに秋が来たのだと思った。秋から冬に向かって、ある種の文学は充実してゆく。夜がとぷりと深く長く。見えないものに感覚が研がれる。真っ暗く、凛と透きとおった天。何かの鉱物に似ている。 季節を、大気を…

新しい文学に向けての断章 二 生成の現場・臨界の場にある言葉

小説の文学史においては、身の置き所を与えられてない犀星だが、詩の文学史においては、近代詩、すなわち口語自由詩の最初の人として、重要な位置を占めている。このことは、彼の散文を問う際、もっと深刻に考えられてよい。 きょうもさみしくとんぼ釣り ひ…

あるシンポジウムでの発言

先月、ある市民向けのシンポジウムで話す機会があった。 純粋に芸術としての「文学」に向かう姿勢とは違う。しかし、根底に流れる立場は基本的に変わらない。 大学で、「文学」とはある意味逆の志向を持つ「研究」を平行して行っている。時折矛盾を抱える。…

新しい文学に向けての断章 一

vir_actuelさんが優れたことを書いている。 私も、拙いながら、あえてこの時代に、文学という領野に心惹かれた理由を再考してみたいと思う。 教養は足りず、論理は貧しい。けれど、闇雲に、力ない感性をふるうのも、またかなしい。 室生犀星が自身の文学的経…

金沢

室生犀星について書こうとした時、金沢へ行く機会を得た。犀星の故郷である。金沢は、犀星のみならず、泉鏡花、徳田秋声、中野重治ら、多くの文学者を生んだ地であって、かねてから行きたいと願っていた。 好きな作家の文学世界に思いを馳せながら、その生地…

室生犀星 一

好きな小説家を問われれば、誰よりもさきに、室生犀星をあげる。私にとって、大変大切な存在である。文学というものの、底知れぬ世界を初めて見せてくれた作家と言ってよい。十年ほど前に知ってから、いまに至るまで、ずっと深い存在感をはなっている。さま…

帰郷・北海道

帰郷 故郷について何か述べることが、少しためらわれるようになった。なにについて述べても、人とのあいだに、故郷というものを厳しく立てるようで、どこか恐い。けれど、何か書いてみたいとは思う。まとまりのある言葉を与えてみたいと思う。 おそらく、い…