2007-01-01から1年間の記事一覧

文学への覚書

文学者にとって、言葉はつねに具象である。それは一度きりの、ある時のある場、そこにおける、ただひとつのある物を示すものである。しかし言葉はつねに、抽象性への堕落に脅かされる。言葉を記号と居直ることほど文学者にとって呪わしいことはない。ともす…

薄明へ   イェイツ「葦間の風」より翻案

薄明へ 朽ち果てし時代の 朽ち果てし心よ 正邪の網を断ち切りて来たれ も一度笑え、心よ ほの白き薄明のうちに も一度嘆け、心よ 暁の雫のうちに さがなき言葉の火に焼かれ 希望は崩れ、愛は潰えども 汝が母エールの地はかわらず若く 雫は光り薄明はほの白い…

女性的な知

時に抑圧は、身体性を礼賛することから始まる。日本において女性性の可能性が問われる時、それが一度として身体性と無縁に説かれたことはない。男女の間に身体的な差異はあり、終局的にはその差異が大きな可能性を生む。しかし少なくとも日本においては、身…

新しい文学に向けての断章 九 言語表現の批判力

既存の言語表現を批判するというのは、既存の言語をただくずしてみせることではない。くずすことによって批判を喚起した、と言うのは極めて浅薄な思考であり、書き手の怠慢でしかない。批判とは、全く別種の、強力な言語表現の体系の存在をひらいてみせるこ…

新しい文学に向けての断章 八 女性的なもの

女性的なもの、というのは、ひとつには、歴史的に屹立した男性的なものの余剰としてぼんやりと、しかしゆたかにあふれているものであって、必ずしも身体が女性の人にそなわっているわけではない。身体が女性であることに、微妙にかさなりあっている、という…