新しい文学に向けての断章三 円環の時間

 何かの先に向かって押し流されてゆく時間の中で、まるで異質に、とどまる時間というものがある。静かに、そっと繰り返される、円環にも似た時間。変わってゆく外界の中で、変わらない生の形。その時間は、ただ一人のものであって、誰かと分かちあうものでは決してない。秘密の場所を明け渡すことなく、しかし流れる時間と折り合いをつけながら。朝目覚め、夜眠りについた。外界は流れていった。私は流れに身をゆだねている。一年、二年過ぎた。けれど朝目覚め、夜眠りにつく。その変わらない繰り返しの中にこそ息づく、実存のような瞬間。何かは果たされたか。いや、ひそやかさの内にすでに果たされている。

 おそらく犀星は探りあてている。かたくなにゆらがない一人ひとりの時間の形を。日々の形がまるで違って見える、そんな文学世界。


「百年経った」

「そうかも知れない」