2006-11-01から1ヶ月間の記事一覧

新しい文学に向けての断章 七  かの「私」/私の知らない私

「私」のうちには、「私」の決して知り得ない「私」がいる。それはただいることがわかるだけであって、何ものであるかわからない。かの「私」は決して同定できず、永遠に同一性として立ち上げることはできない。そしてまた、かの「私」は共同的なものではな…

幻想文学について

真の意味での幻想文学とは、書き手が幻想的なものを書こうという意識がなかった時に生まれる。最初からある種の幻想的な主題の下に書かれたものは、好事家の仕事であって、むしろ除けられるべきものである。徹底して事象を追求した果てに、出現する奇怪な世…

ナショナリズムとジョイス

国家は父性的なものであるが、ナショナルなものとは母性的なものである。それは最後の局面で、対決を許さない。ある種の懐かしさと愛情を湛え、人々をとらえる。精神の底で、否定しがたい何かとして働くのである。それゆえ、その超克は非常に困難になる。 ジ…