雑記

 素朴に、外国文学を読む機会を得ている。

 私のものではない言語。日本語もおそらく、私のものではないが。しかしまた、見知らぬ言語でもやはり、書き手が言葉にかけた力は感ずる。そのような力を感じさせること、それをただ目指せばよい。同じ言語の内でしか感覚を共有し得ない、というのは正しくない。


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  People forget years and remember moments.

                   (Ann Beattie “Snow")

 人は年月を忘れ、瞬間を思い出す。

 静謐な回想の中で語られるこの言葉はひどく美的に響く。けれどまた、ある種の文学の主題の一つを簡潔に言い表している。記憶の中で蘇るのは、いつもただ断章なのだ。過去の時間は、今に向かって落ちてゆく流れの内には、ない。